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名医と迷ランナー第7話

更新日:2015年8月7日

美しいフォームをつくる =後編=

前回ウィンドスプリントで美しいフォームをつくることの大切さをお伝えしました。では、もう少し具体的にフォームについて考えてみましょう。

マネキンの肩部を後ろから押すと前方に倒れます。また、マネキンの大腿部を押すと手前に倒れてきます。どちらの場合もマネキンをスムーズに移動させることはできません。しかしマネキンの中心部に当たる腹部又は下背部を押すと移動させることができます。物体を効率よく移動させるには、物体を安定させた上で正しく重心に力が加わらなければなりません。また、物体は空中にあれば、重力の影響を受け落下します。
走るという動作はこの状態です。

ヒトという縦に細長い物体を安定させるために最も大切なことは、お尻から頭頂部にかけての軸です。この軸が曲がったり、捻じれていては安定しません。軸が安定すれば、蹴った足からの力を無駄なく重心の移動に伝えることができます。
ところが、この軸を安定させるために胸を張ったり、腰を前に出すように意識すればするほど、腰の一部分(第4腰椎や第5腰椎の付近)に大きな力が加わり痛めやすくなります。ランナーに腰痛が多いのは、これも原因のひとつです。

この腰への負担を軽減するのが「腹筋」です。私は、特別筋力のバランスが悪くない限り、単に速く走るためだけには筋力トレーニングはあまり必要ではないと考えます。しかし、故障から身を守り、より高いレベルの練習を可能にしていくためには、腹筋の筋力トレーニングは不可欠と考えています。また、お尻から頭頂部にかけての軸を安定させるためには、上背部の柔軟性も大変重要です。上背部の柔軟性が失われると、背が丸くなったり、傾いて軸が彎曲し、力が分散されるとともに腰部への負担も大きくなります。


次に重要なことは、軸の上下動を最小限に押さえ、高い位置で保持することです。単に身体の形だけをとらえれば脚の前後開脚が広くなれば重心が下がります。これをコントロールするのが、走るスピードに適した蹴る方向や力です。また、蹴った状態の時に膝が曲がっていたり、腰が後ろに引けていたのでは、身体を効率よく移動させることはできません。軸を高い位置に安定させることによって脚の前後の動きの自由度が高まり、柔軟で、伸びやかなフォームを生み出す可能性が高まります。

美しいフォームは、速く走れるフォームであり、けがや障害を予防できるフォームです。完全に一致しているかというと少々語弊があるかも知れませんが、ほとんどイコールと考えて問題ありません。


以上が、安定した軸を高い位置に保つことを意識して取り組む「ウィンドスプリント」こそ速く走るための基礎、基本である理由です。
今までは「走り」をバイオメカニクスの観点から考えてみましたが、次回は運動生理学の観点から考えてみましょう。



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