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名医と迷ランナー第20話

更新日:2016年2月18日

大切な情報系の身体活動Ⅰ

 私自身、前回東京マラソンに参加することはお話しさせていただきましたが、基本的にはオフシーズン・・・。そこで、基礎トレーニングについて考えてみます。非常に専門的な内容ですが、健康づくり、競技力向上を問わず、これからの身体活動を考える上で大変重要なトレーニングの考え方です。

 年末年始のテレビ放送の駅伝やマラソンの特集番組で、バランスボールや不安定ボードなどを用いたトレーニングが写っていたのに気がついた方がおられるのではないでしょうか。
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 ひと昔前、アフリカ勢が積極的にフルマラソンに介入してきた時、わが国の指導者の多くは「800m、1,500m、3,000mを走るような腰高で接地時間の短いフォームではエネルギーロスが大きく、30km程度まで走れるがフルマラソンをそのまま走り切れる訳がない。」と解説していたのは記憶に新しいことです。(一応「ひと昔前」と書きましたが、悲しいかな現在の指導者にもたくさんおられます)しかし、彼らはそのまま走り切り、今や2時間を切ろうとさえしています。では、アフリカ勢はどのようにして腰高の接地時間の短いフォームで、フルマラソンを走り切れることを可能にしたのでしょうか!?
一つは、はだしで走る経験が長いということ。二つ目は、クロスカントリー(不整地のアップダウン)での練習を大切にしてきた結果と考えられています。

これまでの、筋力、持久力、敏捷性といった体力要素別のトレーニングの分類とは若干異なるため、少し詳しく解説します。

 柱が倒れそうになって大きく傾いた場合は、倒れる方に回り込んで膝を曲げ、腰を落として踏ん張って、支えてからゆっくり慎重に元に戻す必要があります。これに対して、大変不安定な柱であっても、まっすぐ立っていてどちらに傾くのかわからない状態であれば、素早い反応は求められるものの、2本の指で倒れないようにコントロールすることが可能です。先のケースは、大きな力(エネルギー)を使って、ゆっくり柱を元に戻す必要があるため[エネルギー系の運動]といえます。これに対して、僅かにバランスを崩しかけてはいるが、どちらに倒れる分からない状態では、大きな力(エネルギー)は必要ではないが、五感を研ぎ澄まして素早く倒れそうになる方向に対応する必要があることから[情報系の身体活動]といえます。

[情報系の身体活動]は、「五感で情報を認識」→「神経回路を通って脳に伝達」→「脳が判断と命令を下し」→「神経回路を通って筋肉に伝達」→「筋肉が反応」することによって成り立ちます。情報が正しく認識できなくても、情報の伝達速度が遅くても、誤った判断を下したり、判断するのに時間を要しても、筋肉の反応が鈍くても、身体が瞬時に反応するような動きには結びつきません。中でも「五感で情報を認識」が正しく行われなかったり、情報量が少なければ、脳が誤った判断を下してしまいます。競技者がメガネやコンタクトを変えたところ、競技力が急激に向上したなどはこの代表的なケースです。同様に、高齢者が暗い所でよくつまずくのは、その初期においては、筋力の低下で足が上がらないのではなく、正しく見えていないため、脳が誤った判断を下しているともいえます。また同時に、非常に多くの情報が寄せられた場合は、瞬時に情報の優先順位の決定ができなければパニックに陥って判断できず、身動きの取れない状態に陥ったりもします。

 マラソンの話しに戻りますが、走るという動作は、直接身体を前に進めるために必要な[エネルギー系の身体活動]だけでなく、常に前後左右のバランスを修正する[情報系の身体活動]の介入が必要です。つまり[情報系の身体活動能力]が低ければ、一歩一歩がふらつくため重心が低くなり、[エネルギー系の身体活動]に依存する割合が高くなります。その結果、第14話で解説しましたが、無駄にグリコーゲンを使う割合が増えてしまい、エネルギー切れを起こして30km以降失速するリスクが高くなります。反対に[情報系の身体活動能力]に優れていれば前後左右のふらつきが僅かで、腰高のフォームを維持できることから物理的に移動はスムーズで、生理学的にもエネルギーの消費は少ない走りになります。つまり、[情報系の身体活動能力]に優れていれば身体が瞬時に反応することから、腰高で、エネルギーをあまり使わない走り方が可能となります。
この[情報系の身体活動]の基礎トレーニングが、閉眼片脚立ちやバランスボール、不安定ボードなどを用いたトレーニングです。また、走ることに特化した応用トレーニングが、裸足で走ったり、不正地を走ったり、クロスカントリートレーニングを行うことです。

 次回も情報系の身体活動を中心に、基礎トレーニングについて考えて見ましょう。

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